鋳造/Casting
この作品は蝋の原型を耐火石膏でつつみ、焼成し蝋を焼失させそこにできた空洞に溶した金属を流し込む方法で制作しました。
原型は蝋型、鋳造方法は石膏埋没鋳造となります。
この作品は次のような工程で制作しました。
1.マケット(模型)で構想を練る
2.原型の制作(建築用発泡断熱材を使用)
3.原型から石膏で型を取る
4.石膏型から蝋型を制作
5.湯口や湯道を作る(溶かした金属を注ぐ為のもの)
6.蝋型を耐火石膏に埋没し鋳型をつくる
7.鋳型を電気窯で焼成して脱蝋する(蝋が焼失して空洞になる)
8.素材の金属を溶かし、鋳型に流し込む
9.鋳型が冷えてから割り出す
10.湯道等を切り補修や磨きなどを施し仕上げて完成
マケット(模型)を制作してサイズやパーツ数などを考察します。
マケットを元に原寸大の下図を作成します
下図を元にパーツを切り出し原型を制作します。今回は建築用断熱素材のスタイロフォームという高密度の発泡スチロールで制作しました。
すべてのパーツを並べ実際の感じを見て修正します。初期案から2パーツ減らしました。
今回は石膏埋没鋳造なので鋳型(いがた)を焼成します。その際、中の原型が焼失する素材である必要があります。その原型を蝋で作るためこの原型から雌型を取ります。
原型から取った雌型の一つです。3個から4個のパーツに分かれます。
水を良く含ませた雌型にとかした蝋を刷毛で塗っていきます。水を含ませることで離型の役割をします。逆に乾いてると張り付いてしまいます。
刷毛で塗った蝋の上に板状の蝋を貼り付けていきます。塗った蝋とこの蝋の厚みがそのまま金属の厚みとなります。
雌型から抜き取ると蝋原型の完成です。
湯道や笄(こうがい)など鋳造に必要な構造を施します。湯道は溶けた金属を流し込む為の通り道です。笄は特に中空の作品で中子(なかご)(内側の鋳型(いがた)の支持に必要な構造です。何本も刺さってる針のような物がそれです。
アルコールで油分などを洗浄し、耐火性のある石膏に埋没します。普通の焼き石膏に焼きレンガの粉を混ぜています。
原型のサイズによりますが、今回の鋳型は9個ともこのくらいのサイズになりました。
鋳型は電気炉で4日~5日かけて焼成しました。最高600℃まで上げて中の水分と蝋を焼き切ります。
鋳造作業を「吹き」と呼んでいます。今回はアルミの吹で溶解量も多く、奥の銅系用の炉が使用できないので専用の炉を建てました。
吹きは土間と呼ばれるこの場所で行われます。鋳型は溶かした金属を流し込む鋳込みの際の型割れ防止に石膏を浸した麻布でバックアップし、作業性や型の保持の為、土間に8割方埋めます。
土間の土は真土(まね)と呼ばれる砂で日本の伝統的な鋳造法、真土型の鋳型に使われる物です。何度も繰り返し使える上、鋳物の肌、鋳肌がきれいなのも特徴です。
型が冷えたらいよいよ割り出しです。一番ドキドキする瞬間です。
一番上の赤い三角が湯口(ゆぐち)といいます。 ここから溶かした金属(湯)を流し込みますその先の枝分かれして作品を囲むような枝を湯道(ゆみち)といいます。 湯道を流れた金属は一番下で溜まり上がっていきます。湯道から作品に繋がる枝を堰(せき)といいます。 堰は上向きに取り付け、鋳込みの勢いを殺して鋳型にダメージを与えないようにします。 湯が上がっていき作品の上先端に取り付けたあがりまで上がってきます。あがりは鋳型の中のガス(空気)抜きの役割をし、最後まで湯を満たす役割をします。 鋳型や吹きに問題があると色々な欠陥が出てきます。このパーツには肌(表面)の一部が剥落する欠陥が出てしまいました。
大学が冬休みに入ってしまったので実家に持ち帰り年越し仕上げとなりました。 案外、湯道が付いたままの造形も面白いものです。
なんとか間に合いました。 藝大美術館での展示です。エントランスで展示しました。